最近、四国電力送配電の19歳の社員が亡くなり、職場でのパワハラを訴える内容の遺書が残されていたことが報道されています。
このニュースを見て、私は昔、自分が電力会社の送配電部門に配属されたころのことを思い出しました。
そして、これから書く内容は現在の職場環境について書いたものでもありません。
それでも、電力会社の送配電部門に入った新入社員がどのような一日を過ごしていたのか。
そして私自身が当時どのような経験をしたのか。
一つの体験談として残しておきたいと思います。
※この記事について
本記事は、筆者が過去に勤務した電力会社で実際に経験・目撃したことを中心に書いています。現在の同社や電力業界全体の職場環境を示すものではありません。また、現在報道されている四国電力送配電の事案について、筆者は内部事情を知りません。今回の事案におけるハラスメントの有無や死亡との因果関係を判断するものでもありません。
- 新入社員は朝7時に会社へ
- 8時40分になるとラジオ体操と「配電部の心得」
- 9時ごろ、班長と新人の「2人だけ」で現場へ
- 準備が不十分なら罵声。暴力を伴うこともあった
- 現場には「第三者の目」がなかった
- 私自身、管理職に訴えたことがある
- 「証拠を出してください」と言われても難しい
- 社内で土下座させられている新人も見た
- 昼食後も現場へ。17時に戻ってから事務仕事
- さらに週1回程度の宿直
- 大卒以上は1年程度、高卒は長く現場を経験することも
- 私がたどり着いたのは「耐えるか、脱出するか」だった
- 四国電力送配電の問題を見て思うこと
- まとめ|「安全のために厳しい」と「何をしてもいい」は違う
- 最後に「厳しい人=優秀なリーダー」という評価軸を見直す必要がある
新入社員は朝7時に会社へ
私が配電部門にいた当時、会社の正式な始業時間は8時40分でした。
ところが、新入社員は朝7時までに会社へ来ることになっていました。
高卒、大卒、大学院卒による違いはありません。
朝7時に出社して、倉庫や職場の掃除をします。
正式な始業時間までは1時間40分あります。
少なくとも私が経験した当時、この時間について残業代を受け取った記憶はありません。
当時の私は、
「新人だから仕方がない」
と思っていました。
しかし、今になって考えると、
「始業時間が8時40分なのに、なぜ新人だけ7時に来る必要があったのだろう」
と思います。もちろん7時までに来ないと強い叱責があります。
8時40分になるとラジオ体操と「配電部の心得」
8時40分になると正式な勤務時間が始まります。
まずラジオ体操。
その後、グループになって「配電部の心得」のようなものを大声で全員で復唱していました。
時には朝から、その場で腕立て伏せなどの筋力トレーニングをすることもありました。
今も同じことが行われているのかは知りません。
あくまで、私が新人だった当時の話です。
9時ごろ、班長と新人の「2人だけ」で現場へ
9時ごろになると現場へ向かいます。
ここは前の記事でも触れましたが、正確には私が経験した現場では、
班長1人+新入社員1人。
基本的に2人で現場へ向かっていました。
配電設備は電気を扱います。
判断を間違えれば重大な事故につながる可能性があるため、安全確認や作業前の準備が非常に重要なのは間違いありません。
新人にも、その日に行う作業について事前に十分予習しておくことが求められていました。
しかし、私が問題だったと思っているのは、指導の方法です。
準備が不十分なら罵声。暴力を伴うこともあった
その日の作業について十分に答えられなかったり、準備に不備があったりすると、厳しく叱責されることがありました。
私自身が経験した範囲でも、罵声を浴びせられることがありました。
そして、さらに重大なのは、身体的な暴力を伴う場面もあったことです。
電気を扱う以上、
「危険な行動をしたら厳しく注意する」
こと自体は必要でしょう。
私も安全教育の必要性を否定するつもりはありません。
しかし、
安全のために厳しく指導することと、罵声を浴びせたり、暴力を振るったりすることは全く別です。
今ではそう考えています。
現場には「第三者の目」がなかった
そして、私が非常に大きな問題だったと思うのが、
現場に班長と新人の2人しかいないことです。
仮にそこで暴言や暴力があったとしても、それを見ている第三者がいません。
新人が、
「こんなことを言われました」
「こんなことをされました」
と会社に訴える。
しかし相手が、
「そんなことはしていない」
と言えばどうなるでしょうか。
「言った」「言わない」の問題になってしまいます。
仕事中ずっと録音しているわけでもありません。
つまり、現場で起きた出来事を後から客観的に証明することは非常に難しかったのです。
私はこの「第三者の目がない」という構造は、ハラスメントを考えるうえで非常に重要だと思っています。
私自身、管理職に訴えたことがある
実は私自身も、当時の管理職にパワハラや暴行について訴えたことがあります。
しかし、私が期待していたような対応にはなりませんでした。
むしろ私に返ってきたのは、
「なぜ暴行を受けたのか」
という問いでした。
そして、
「あなたにも何か問題があったのではないか」
という方向に話が進んでいきました。
最終的には、
「これから殴られないように、あなたも改善していこう」
という趣旨の話になりました。
私は被害を相談したつもりでした。
ところが、いつの間にか、
「自分の何が悪かったのかを考える話」
になっていました。
これは今でも強く記憶に残っています。
もちろん、これは私が当時経験した管理職とのやり取りについての記憶です。
現在の会社の対応が同じだと主張するものではありません。
しかし当時の私は、
「会社に相談しても守ってもらえないのではないか」
と感じるようになりました。
「証拠を出してください」と言われても難しい
さらに、ハラスメントについて会社側に対応してもらうためには、客観的な証拠が重要だという説明も聞きました。
録音や録画などです。
確かに、会社が一方の主張だけで誰かを処分するわけにはいかないという考え方は理解できます。
冤罪を防ぐ必要もあります。
しかし、ここで先ほどの**「2人だけの現場」**という問題が出てきます。
班長と新人しかいない。
第三者はいない。
録音も録画もしていない。
その状態で暴言や暴力があったとして、
新人側はどうやって「完璧な証拠」を残せばいいのでしょうか。
私はここに大きな矛盾を感じます。
「証拠がなければ対応できない」
という仕組みだけでは、第三者のいない職場で起きるハラスメントを発見することは難しくなります。
だからこそ、会社側が本人の申告を待つだけではなく、異常を発見する仕組みを持つ必要があるのではないでしょうか。
社内で土下座させられている新人も見た
もう一つ、今でも忘れられない光景があります。
私自身が社内で、
新入社員が土下座させられている場面を目撃したことがあります。
なぜそこまでの状況になったのか、そのすべての経緯を私は知っているわけではありません。
ですから、その場面だけから事情のすべてを判断するつもりはありません。
しかし、
職場で新人が土下座している。
その光景自体が、私には異常に見えました。
当時は周囲にある出来事を、
「この業界ではこういうものなのだ」
と受け入れてしまっていた部分もあったと思います。
会社の中に長くいると、会社独自の常識がいつの間にか自分の常識になってしまうことがあります。
会社の外に出てから、
「あれは普通ではなかったのではないか」
と気付くこともあります。
昼食後も現場へ。17時に戻ってから事務仕事
午前中の作業が終わると昼食です。
現場の近くで食べることもあれば、支社へ戻って社員食堂で食べることもありました。
午後も現場へ向かいます。
そして17時ごろに支社へ戻ります。
しかし、そこで一日が終わるわけではありません。
そこから書類整理などの仕事が始まります。
私が経験した当時は、会社を出るのが20時台になることも一般的でした。
朝7時から20時台まで会社にいる。
新人にとっては長い一日でした。
さらに週1回程度の宿直
加えて、私がいた配電部門では週1回程度の宿直勤務がありました。
会社に泊まります。
夜間に停電や設備トラブルなどが発生すれば、呼び出されて現場へ向かいます。
電気は24時間必要です。
停電すれば、誰かが復旧しなければなりません。
社会を支える非常に重要な仕事です。
その一方で、夜中に仕事をする可能性がある勤務は、当然ながら身体的な負担もあります。
大卒以上は1年程度、高卒は長く現場を経験することも
私がいた当時、新人時代の現場業務は高卒、大卒、大学院卒で基本的には同じでした。
ただ、その後のキャリアには違いがありました。
大卒・大学院卒の場合、1年程度現場を経験した後、2年目の途中ごろから苦情対応などを担当する部署へ異動するケースが一般的でした。
そこで数年間経験を積み、人によっては本社勤務などへ進んでいきます。
一方、高卒社員の場合は個人差が大きく、長期間にわたって現場業務を担当する人もいました。
これについても、私が在籍していた当時の会社での経験です。
現在の電力会社の人事制度について述べているものではありません。
私がたどり着いたのは「耐えるか、脱出するか」だった
当時の私が最終的に感じたのは、
「耐えるか、そこから脱出するしかない」
ということでした。
しかし、本来はそんな二択であってはいけないと思います。
特に新人は、
「自分が仕事のできない人間だから怒られる」
「先輩も経験してきたのだから耐えるべきだ」
「相談しても自分にも原因があると言われる」
「証拠がないからどうしようもない」
と思い込んでしまう可能性があります。
そして、その状態が続くと、相談すること自体を諦めてしまいます。
必要なのは、被害を訴えた本人にだけ証明を求める仕組みではなく、会社自身が異常を発見できる仕組みだと思います。
直属の上司を通さない相談ルート。
新人との定期的な個別面談。
現場とは独立した部署によるヒアリング。
長時間労働や欠勤、体調の変化などのチェック。
そして何より、
「相談した人にも原因があるのではないか」から調査を始めないこと。
少なくとも、最初に必要なのは被害を訴えた人の話をきちんと聞き、事実関係を調べることではないでしょうか。
四国電力送配電の問題を見て思うこと
2026年9月、四国電力送配電の19歳の社員が徳島県上勝町の鉄塔から転落して亡くなり、職場でのパワハラを訴える内容の遺書が残されていたことが報道されています。
四国電力送配電は9月18日、調査の独立性・中立性を確保するため、日弁連のガイドラインに準拠した第三者委員会を設置すると発表しました。
現時点では、職場環境や指導状況、ハラスメントに関する指摘、安全配慮義務の履行状況などが調査される段階です。
そのため、今回の事案について「パワハラが原因だった」と私が結論付けることはできません。
それでも今回の報道を見て、
「新人が先輩社員と少人数で現場に出る職場で、もしハラスメントが起きたら、会社はどうやって発見するのか」
ということを改めて考えました。
第三者の目がない場所で起きた出来事を、新人本人だけに証明させる。
それでは救えないケースが出てくるのではないでしょうか。
まとめ|「安全のために厳しい」と「何をしてもいい」は違う
送配電の仕事は危険を伴います。
だから、安全教育は必要です。
厳しく注意しなければならない場面もあるでしょう。
しかし、
安全のために厳しく指導することと、暴言・暴力・人格否定を許容することは別問題です。
私は配電部門で働いた経験そのものを否定したいわけではありません。
電気を守る仕事には大きな社会的意義があります。
優しく仕事を教えてくれた先輩もいました。
だからこそ、私は、
「昔からこうだった」
「自分たちも耐えた」
という理由だけで、若い社員が同じ経験をする必要はないと思います。
私はかつて管理職に被害を訴えました。
しかし、そこで言われたのは、
「あなたにも問題があったのではないか」
そして、
「これから殴られないように改善していこう」
という趣旨の言葉でした。
被害を訴えた人に必要なのは、
「次から殴られないように頑張ろう」ではありません。
まず何が起きたのかを調べることです。
そして、同じことを繰り返させないことです。
新人が限界を迎えてから声を上げるのを待つのではなく、会社側から若手を守る仕組みを作ること。
今回の報道を見て、昔の自分の経験を思い出し、改めてそう感じました。
最後に「厳しい人=優秀なリーダー」という評価軸を見直す必要がある
最後に、これはあくまで私個人の見解です。
現在、経営層や管理職になっている人たちの中には、若いころに厳しい指導を受け、それに耐えながら仕事を覚えてきた人も少なくないのではないでしょうか。
そして、自分が受けてきた指導を、今度は部下に対して繰り返してしまうこともあるかもしれません。
もちろん、厳しい指導のすべてがパワハラではありません。
仕事には時として厳しさが必要ですし、特に電気を扱う現場では、安全のために強く注意しなければならない場面もあります。
私が問題だと思うのは、「厳しく指導できる人=優れたリーダー」という評価になってしまうことです。
部下を強い口調で叱る。
妥協を許さない。
部下に高い負荷をかけ、それでも仕事をやり遂げさせる。
こうした行動は、見る人によっては「統率力がある」「部下を鍛えている」「強いリーダーシップがある」と映ることがあります。
そして、そのような人物が組織の中で評価され、管理職になり、さらに経営層へ上がっていく。
もしその過程で、
「部下が安心して意見を言えるか」
「若手を育成できているか」
「部下の心身を壊さず成果を出しているか」
といった部分が十分に評価されていなければ、職場環境はなかなか変わらないのではないでしょうか。
さらに難しいのは、過去に厳しい環境を耐えてきた人ほど、
「自分たちの時代はもっと厳しかった」
「自分もそれを乗り越えてきた」
と考えてしまう可能性があることです。
しかし、自分が耐えられたことと、次の世代にも同じ経験をさせてよいことは別です。
むしろ、
「自分たちは苦労した。だから次の世代には同じ苦労をさせない」
と考えることこそ、組織を前に進めるリーダーシップではないでしょうか。
ハラスメント対策というと、相談窓口を設置したり、研修を実施したりすることが中心になりがちです。
もちろん、それらも必要です。
しかし、本当に職場を変えるのであれば、もっと根本にある**「会社がどんな人を評価し、どんな人を管理職にするのか」**まで考える必要があると思います。
部下を萎縮させて成果を出す人ではなく、部下が安心して働き、成長し、それでも成果を出せる環境をつくれる人を評価する。
そうした評価軸に変わらない限り、表面的なハラスメント対策だけでは、同じ問題が形を変えて繰り返される可能性があります。
今回の四国電力送配電の事案について、私は内部事情を知りませんし、現在行われている調査の結果を待つ必要があります。
だから、これは今回の事案の原因について述べているのではありません。
私自身が過去に電力会社の配電部門で働いた経験から、電力業界を含む組織全体について考えていることです。
若い社員に「耐える力」を求めるだけではなく、
管理する側に「人を壊さずに育てる力」を求める。
私は、こちらの方がこれからの組織には重要なのではないかと思っています。

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